若い頃、私にも勢いがあった。イケイケどんどん、事業を拡大し売り上げを伸ばす。そのことに喜びを持っていた。
あるとき、とても大きな会社の定期の仕事の依頼がきた。私は小躍りして女房にその事を話した。これが決まるとうちはさらに大きく飛躍するな。頑張るよ!
すると女房は少し悲しそうな顔をして私にこう言った。
「そんなに一生懸命働いてどうするの?私は今のままでも十分幸せだし、忙しすぎるより、旅行に行ったり、休んだりそう言う事で充実した人生が送りたいな。」と。
若かった私はこれを聞いて愕然とした。脳天をハンマーで叩かれたような思いだった。そう言う価値観もあるのか!自分の頭の中にはそんな思いは一切なかった。あまりにも自分と違う意見に一旦は戸惑ったが、あまりにも違ったため心に残り、それから毎日そのことを考えるようになった。
そして私は結論を出した。その大きな仕事は断り、余裕を持って仕事をし、夫婦で旅行に行ったり、余暇を楽しもうと。
あれから、約20年たった今、私は還暦となった。あの時の女房の言葉は一度も忘れたことはない。
「今、振り返ると、あの時お前に言われたことは正しかったと思うよ。事実、俺は幸せだし、何も不満もない。お前には感謝しかないよ。」と当時言われたことを女房に伝え、そして感謝した。
女房は少し不思議そうな顔をして、私にこう言った。
「え〜、私そんなこと言ったっけ?ジャンジャン仕事して稼いでほしいのに〜。」
おしまい。。。。